がん患者さんが関節リウマチになったとき

お知らせ
— がん治療医とリウマチ治療医との間で —
■ がんとリウマチが重なったときに起こる問題
がん治療中、あるいは治療後に関節リウマチを発症することは珍しくありません。逆に、リウマチ治療中に新たながんが見つかることもあります。
このような場合、患者さんは二つの病気と向き合わなければなりません。しかし実際には、それぞれの病気を専門とする医師の間で治療方針の調整が必要になることがあります。
なぜなら、がん治療では免疫の働きを活かしたい場面がある一方、関節リウマチでは免疫の過剰な働きを抑える治療が必要になるからです。
■ 免疫は「敵」でも「味方」でもある
関節リウマチは自己免疫疾患のひとつで、免疫システムが誤って自分自身の組織を攻撃してしまう病気です。主に関節が標的となり、痛みや腫れ、こわばりなどの症状が現れます。
一方、がん細胞は私たちの体内で日々生まれていますが、免疫システムがそれらを見つけて排除しているため、すべての人ががんになるわけではありません。この免疫の監視をすり抜けて増殖したものが「がん」として診断されます。
■ リウマチ治療医の苦悩
医師は関節リウマチ治療薬の多くが免疫を抑える作用を持つことを知っています。そのため、
「免疫を抑える薬を使うと、がんが再発するのではないか」という直感的な不安を抱くことがあります。
がん治療医がリウマチ薬の安全性データを詳しく知っているとは限りません。その結果、リウマチ治療医にリウマチ治療の第一選択薬、メトトレキサート( MTX )を使わないでほしいと要望することがあります。
患者さんは、がん治療医から「リウマチ治療薬でがんが再発するかもしれない」と言われれば当然不安になります。すると、リウマチ治療医は重要な治療選択肢を使えないまま、症状をコントロールしなければならなくなります。
■ がん患者さんの関節症状は後回しになりがち
がんは命に関わる病気であるため、どうしても優先されます。がん治療中の患者さんは「がんの方が大事だから」と関節症状を我慢してしまうことがあります。
しかし、関節リウマチは命に直結しないものの、痛み・腫れ・こわばり・倦怠感など、生活の質を大きく損なう症状が現れます。リウマチの痛みは本当に辛いものです。放置すれば関節破壊が進み、元の生活に戻れなくなることもあります。
■ がん患者はリウマチの標準治療を受けられないのか?
日本のリウマチ診療ガイドラインでは、がん既往患者の治療について明確な記載がありません。しかし、海外の文献を調べると重要な知見が得られます。
▷メトトレキサート( MTX )は乳がん再発を増やさない
米国のデータでは、MTXを使った患者と使わなかった患者で乳がん再発率はほぼ同じであり、再発リスクを高める証拠はありません。*1
▷従来型DMARDsは「一般的に安全」
最新の総説では、MTXを含む従来型DMARDsは、がん既往患者でも一般的に安全と結論づけています。*2
*DMARDs: disease-modifying antirheumatic drugs(疾患修飾性抗リウマチ薬)
▷TNF阻害薬も( 皮膚がんを除けば )再発リスク増加なし
生物学的製剤であるTNF阻害薬も、皮膚がんの既往を除けば、再発リスク増加は認められていません。*2
▷ EULAR ( 欧州リウマチ学会連合 ) の最新方針
2024年EULARは「がんが寛解している患者では、適切な標的治療薬を遅滞なく開始すべき」と明確に述べています。そして最も重要なのは「専門医同士が連携し、患者さんと共に治療方針を決めること」です。*3
EULAR: European League Against Rheumatism. 現在は「EULAR」の略称を残したままEuropean Alliance of Associations for Rheumatologyと改称
■ 最後に
がんとリウマチ、どちらも患者さんの人生に大きな影響を与える病気です。治療方針を決めるうえで、主治医としっかり話し合うことが何より大切です。がん患者さんでも、リウマチの標準的な治療が受けられます。遠慮せず、気になることは何でも相談してください。

文献*2よりDr.O 作成
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*1 Mamtani R, et al. Association between breast cancer recurrence and immunosuppression in rheumatoid arthritis and inflammatory bowel disease: A cohort study. Arthritis Rheumatol 2016; 68(10): 2403-11.
*2 Shasti-Nazem B, et al. Treatment of persons with rheumatoid arthritis with a history of cancer. Curr Rheumatol Rep 2025; 27(1): 34.
*3 Sebbag E, et al. 2024 EULAR points to consider on the initiation of targeted therapies in patients with inflammatory arthritis and a history of cancer. Ann Rheum Dis 2025: 84(3): 388-397
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